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12 Nov 2025
Mass General Brighamの研究者らは、がん細胞内の細胞機構を乗っ取ることで抗腫瘍免疫を促進する手法を開発した。
本研究では、がん細胞に免疫活性化分子を産生させることで、前臨床モデルにおいて腫瘍増殖が抑制されることが実証された。
本研究結果は、PNAS誌に掲載された。
「腫瘍細胞は腫瘍微小環境のかなりの部分を占めているが、免疫療法では十分に活用されていないことが多い」と、Mass General Brigham Department of Medicineの研究者で、筆頭著者のNatalie Artzi博士は述べた。
「これらの知見は、腫瘍細胞が自らの除去に積極的に寄与する仕組みを明らかにしている」
細胞質内の二本鎖DNA(dsDNA)の存在は、潜在的な感染や細胞損傷に対する防御機構を起動させる自然免疫センサーを活性化させる。
その一つである環状GMP-AMP合成酵素(cGAS)は、細胞質内のdsDNAを感知し、環状GMP-AMP(cGAMP)を生成する。これによりインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)経路が活性化され、炎症性免疫応答が誘導される。
さらに、cGAMPは細胞外へ輸送され、隣接する細胞を活性化する。
がん細胞は細胞質内のdsDNAレベルが高い場合もあるが、多くの場合cGAS-STING経路を抑制し、がん細胞自身の活性化と腫瘍微小環境内の傍観免疫細胞の活性化を防いでいる。
研究チームは、がん細胞内に存在するこの生来のメカニズムを利用し、cGAMP産生を増加させることで抗腫瘍免疫を強化した。
培養したマウスメラノーマ細胞は、dsDNAおよびcGASをコードするmRNAを運ぶ脂質ナノ粒子(LNPs)で処理されると、cGAMP産生が上昇することが判明した。
免疫細胞は、がん細胞によって産生された細胞外cGAMP濃度の上昇に応答して活性化の兆候を示した。
同様に、cGAS LNPによる治療は、悪性黒色腫のマウスモデルにおいて、周囲の免疫細胞を活性化し、腫瘍の成長を遅らせ、全生存期間を改善した。
この治療を免疫チェックポイント阻害療法と組み合わせることで、さらに治療成績が向上した。
著者らは、この戦略は将来、ワクチンを含むがん治療以外にも応用できる可能性があることを示唆している。
(2025年11月4日公開)